手の込んだ授業には徹底的な準備を | 授業の基本シリーズNo.05
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はじめに

授業の基本シリーズNo.3において、

実験室で授業を実施するのはとても難易度が高いことをお伝えしました。

今回の授業の基本シリーズでは、

過去に実際に行った赤ワインの蒸留を題材にとして、

教育困難な生徒のいるクラスにおいて、

どのような配慮を施していけば実験授業が

成立しやすくなるのかをお伝えしていきます。


今回の重要なポイントは一言でいうと、「生徒理解」。これに尽きます。

生徒の行動特性を理解した上で、授業妨害に発展するシナリオを予測し、

それを避けられるような授業展開を計画して準備に取り掛かります。

それでは、この時の授業資料を参考に確認していきます。

(当時利用した資料は、「こちら」からダウンロード可能です。)

今回の授業は、赤ワインからアルコール(エタノール)を取り出す実験を通して、

生徒たちが蒸留の原理を学習することを目的としていますが、

授業者にとっては、今後ご紹介する実験授業の中でも

最上位にランクインすると言っても良いほど難解な内容になっています。

その理由は、授業の始まりから終わりまでの

授業者と生徒の行動をリストアップすると明確になります。

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◎本時の流れ

■導入部分
①(授業者は)蒸留の原理を説明する。
②(授業者は)実験の手順を説明する。
■実験準備段階
③(授業者は)器具を配布する。
④(生徒は)赤ワインと沸騰石を枝付きフラスコに入れる。
⑤(生徒は)温度計を(予め穴を空けた)ゴム栓に通す。
⑥(生徒は)温度計をつけたゴム栓を枝付きフラスコに装着する。
⑦(生徒は)ゴム管を枝付きフラスコとガラス管に装着する。
■実験前半(エタノールの蒸留)
⑧(授業者は)ガスバーナーに火をつけて、(生徒は)弱火で加熱する。
⑨(生徒は)温度計の目盛りを読み取り加熱直後(直前)の温度を記録する。
⑩(生徒は)2分ごとの温度を記録する。
⑪(生徒は)試験管に2mLの液体が集まったら、次の試験管に入れ替える。
⑫(生徒は)試験管に2mLの液体が3本集まったら、バーナーの火を止める。
■実験後半(得られた液体の分析)
⑬(生徒は)赤ワイン、試験管(1本目~3本目)の液体の色、臭い、2mL得られた時の温度を整理する。
⑭(生徒は)赤ワイン、試験管(1本目~3本目)にマッチの火を近づけて、引火性を確認する。
⑮(生徒は)それぞれの試験管に含まれる液体成分は何か考察する。
 
どうでしょうか。この授業時間内に15もの手順を踏む必要があります。私が勤務していた学校は1コマ50分でしたから、スムーズな進行を心がけないと、時間内に授業を終えることが出来ません。

この授業内容を2回分に分けて、

実験の前半部分(エタノールの蒸留)と後半部分(液体の分析)を

別々に行うのが理想ですが、そうなると今度は、

次の授業までに1グループ当たり3本の試験管を保管する必要性に迫られます。

従って、当時の私になぞらえて考えると、

同じ内容の授業を3クラス行っており、

1クラスあたり10グループに分かれていたので、

最大3本×10グループ×3クラス=90本の試験管を管理しないといけなくなります。

この場合、特定の実験授業に利用出来る90本の試験管が

学校にあるのかどうかも気になりますが、

他学年の(理科の)授業に影響を与えないかも含めて考えないといけませんし、

器具の準備や片付けに関わる作業時間が一気に増えてしまいます。

そのような事情も踏まえて検討した結果、

1時間の授業内で全てをやりきることにしましたが、

スムーズな進行を心がけるために、

今度は授業進行が滞るケースを想定し、

それを予防するための授業準備を進めないといけません。

そこでは、授業者のアクションや教室環境によって、

生徒がどのような行動をとるかを予測する力、

つまり「生徒理解」が重要になってきます。

普段から生徒たちを指導する中で形成された生徒像を基にして、

これから実施する授業を行った場合にどのような問題が発生するのかをシュミレーションしていきます。

赤ワインの蒸留実験を行う場合、次のような問題が想定されます。

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◎想定される問題と注意事項

③:①、②の説明の段階でテーブルの上に不要な実験器具があると、

勝手に触るなどして授業者の説明に一部の生徒は集中できなくなってしまう。

④:生徒の不注意で、枝付きフラスコの枝の部分を下にしたまま

赤ワインを注いでしまい、枝の部分から赤ワインを垂れ流してしまう。

⑤:温度計が何とか通り抜けるサイズの穴のため、
それなりに力を加えないといけない。

かといって力を加えすぎると温度計を割ってしまう危険性があるので、

絶妙な力加減が必要である。

また、温度計の下端を枝付きフラスコの枝の部分に来るように設置しないといけない。

⑧:火の元の管理に気をつかう。
生徒が自由にガスバーナーを扱える状態にすると、
筆記用具を燃やしてみたりと不要な遊びをするものが出てくるので、
火気は必要な時に使用できるようにする。
⑨~⑪:蒸留液の採集に集中する余り、
どの試験管が1本目なのかという区別がつかなくなる。
⑫:火を消した後のガラス管を液体中につけると、
フラスコ内の気圧が下がり、液体が逆流してしまうので、
空の試験管に入れるなど配慮する。

(進学校であれば、気体の温度と圧力の関係を説明した上で、

この時に敢えて失敗してみせると、

何故このような結果になったのかを考える良い教材になります。

私が今回対象としているのは、

四則演算すら怪しい生徒たちなので、

授業が効率よく進行することを目指します。)

⑬:⑨~⑪と同様の理由で、試験管の液体を移す際に
使用する蒸発皿も1本目~3本目の区別が付くように配慮する。
⑭:⑧と同様の理由で、引火性の確認を行った後、
燃え残ったマッチ棒で生徒が火遊びをする可能性がある。

15項目の手順を終えるだけでも気が重くなりますが、

それぞれの工程についても注意深く進めていかないといけないので、

とても大変な授業であることを理解していただけるのではないでしょうか。

◎授業準備に取り掛かる

ここまで考えてから、ようやく実際の授業準備に取り掛かります。

まずは、必要な実験道具を準備します。

■準備物(1グループ分)

スタンド、金網、枝付きフラスコ、赤ワイン、沸騰石、穴付ゴム栓、温度計、ガラス管、ゴム管、試験管4本(1本はガラス管をおくために使用する。)、試験管立て、500mLビーカー、蒸発皿、チャッカマン(※)
※チャッカマンは教員分のみ準備する。

必要なものが揃ったら、授業がスムーズに進むように、

事前対策として実験器具を授業の進行に合わせて適切な位置に配置していきます。

■事前対策

1.実験準備の時間削減と赤ワインをこぼす
イレギュラーな事態を未然に防ぐために、
スタンド、金網、枝付フラスコは各テーブルにセッティングし、
赤ワインを入れておく。

⇒沸騰石を入れるかどうかは、そのクラスの荒れ具合によって判断します。

突沸を防ぐために入れるという目的を説明するときに、

生徒たちがきちんと聞ける姿勢でいられるのであれば、

生徒たちに操作させる機会を与えるなど配慮を施します。

この授業は説明すべき項目が多いので、

あれもこれも説明していると、

どこかで生徒たちの集中力が切れてしまうので、

説明すべき項目を割愛する必要性に迫られる場合があります。

2.その他、試験管や蒸発皿など実験に必要な備品は、
予め実験グループの数だけケースに入れて器具の配布が
スムーズに進むようにしておく。

⇒各机上に置きっ放しのまま授業を始めると、

多動傾向の生徒は、器具が気になって、

勝手に器具をいじりだして、授業者の説明に集中できなくなります。

授業開始直後は、生徒が座る机の上は、

スタンド、金網、枝付フラスコなど最低限のものだけに留めておきます。

(画像は別の内容ですが、

このような感じでグループ分、予め分けておきます。

「これとこれとこれを手分けして取りに来てください!!」

と指示すると、

収拾がつかなくなり最悪の場合、授業が崩壊します。)

3.2mLの液量がわかるように試験管に油性マジックなどで目盛りを入れておく。

さらに、試験管が1本目なのか2本目なのか3本目なのかが
わかるように付箋をつけるなど、目視で見分けられるようにしておく。
蒸発皿を後で識別できるように、
1本目、2本目、3本目と書かれた付箋をグループ分、準備しておく。
  

⇒ここまで配慮しておくと、

きちんと説明が聞き取れなかったとしても、

生徒が手順を間違える可能性がグンと減ります。

4.ガスバーナーへの点火、引火性の確認のために点火用にチャッカマン(教員分)を準備しておく。

⇒火の元は、必ず教員で管理します。

蒸留操作が終わったら、

授業者は必ず各グループの火の元を確認し、

確実に消火に努めて下さい。

やんちゃな生徒は、炎にとても興味関心を示します。

必要な実験が終わっているのに、火を消し忘れると、

いろんなものを燃やそうとします。

教科書等ではマッチを使用とありますが、

上記の理由を含めて私は授業において

一切マッチは生徒に使用させないようにします。

実験中に、生徒が自分でやりたいと言ってくる時がありますが、

この時は、授業者が立ち合いのもと

生徒にさせてあげるようにしてください。

終わりに

さぁ、これでできる限りの準備は完了しました。

後は、本番を迎えるのみです。

と、ここで少し疑問を抱く先生が見えるかもしれません。

生徒たちの為とは言え、ここまでの労力を割いてまで、

やらないといけないことなのか・・・??

私たちには、他にやるべきことがたくさんあると・・・。

この辺りは先生方の感性だと思います。

実際、私も時間をかけて授業の準備をしてきましたが、

うまく行かないことが多々あります。

今回紹介した蒸留の実験授業についても、

上記の準備を完全に済ませて授業に臨みましたが、

ガスの元栓を開栓するのを忘れて、

フラスコを加熱するタイミングで、

バーナーの火がつかずあたふた。

結局、その時間の授業を潰してしまうなんてアクシデントもありました。

このような経験をしたときは、

ここまで時間をかけてこれなら、

50分座学にした方が効率がよかったのではないかと・・・、

少し後悔します。

教育困難な学校では、

こうした実験授業には他の高校に比較にならないくらいの

配慮が必要になりますが、

その配慮の分だけ生徒たちが何かを学び取ってくれるかというと、

残念ながらそうはいきません。

それならば、いっそのことサラリーマン教師に徹して、

必要最低限のことだけを済ませることに専念して、

授業は座学だけに限定して、

準備時間のかかる授業はやらない。

このような考え方を私は一方的に否定するつもりはありません。

この議論は今回のテーマから外れてしまうので、

ここまでにすることにして、

今回はこの記事を最後まで目を通していただいた方々に、

授業の準備をする時は、

時として多大な時間と生徒たちへの

配慮が必要になるということを理解していただけたら幸いです。

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