実験室で授業を行うのは難しい。
教室で行う授業とは異なった注意点が多数存在する。授業の基本シリーズ No.2において、教室における授業の組み立て方に関する記事をお届けしたが、学習意欲が低い生徒たちにとっては、どれだけ配慮しても教室での授業が続くと退屈してしまう。特に理科の授業だと小学校、中学校時代に実験や工作の授業を経験してきたこともあり、そのような授業に対する需要はそれなりにある。
しかし、特別な配慮を要する生徒が含まれるクラスを相手に実験授業を行うのは困難を極める。だからといって、教室で退屈な授業を受けさせていると、生徒たちのフラストレーションは溜まり、そのストレスのはけ口を求めて、いじめ行為やその他非行に走る結果を招きかねない。
生徒たちの充実した学校生活を望むのであれば、理科教師として、ここは頑張りどころである。
どれだけシンプルな受験を行うにしても、授業前の器具の準備から授業中に必要とされる配慮など、授業を成立させるためにかける事前の身体的・精神的労力は教室で行う授業の比ではないし、こういった手の込んだ授業を行ったことによる効果はなかなか実感出来ない。周囲からも正当に評価してもらいにくいため、授業者のモチベーションはなかなか上がらない。
しかし、繰り返しにはなるが、教室で退屈な授業を受けさせるよりはましである。それだけでなく、きちんとした授業を行えていると、授業中に怒鳴り声を上げて威圧的に指示を与えなくても生徒たちは授業者の指示に従うようになる。これは生徒指導上の問題が発生し、全生徒たちに対して何かしらの説諭を与える必要が生じたときに、どれだけ生徒たちの心に響かせることが出来るかどうかに関わる重要な要素でもある。
さて、それでは本題の方に移る。
今回はこれから実験室で行う授業において教室配置の違いによって引き起こされる問題点についてお伝えする。
■教室配置の問題点について
実験授業は、(化学)実験室で行う。実は、この時点で既に授業が成立し難くなる条件が揃ってしまっている。
まずは、教室と実験室のレイアウトを比較してもらいたい。
教室 世田谷ものづくり学校より
実験室 武蔵野大学中学校 より
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この2つの教室について、注意すべき違いは3つある。
1つ目に、室内空間が広く、黒板前にある教卓が教室のものと比べて大きい。
2つ目に、椅子に背もたれがついていない。
3つ目に、机がつながっている。
(4人掛け用のテーブルになっている。)
これらの違いによって、引き起こされる問題として、まず室内空間が広いことにより、生徒との距離感が非常に遠くなる。そして、黒板の前で説明を行っている際に、騒がしい生徒を直接注意しようと机間巡視を行おうとしても、前に広がる教卓が常に教師を妨害して、うまく指示や注意が届かないのである。
授業者の指示を生徒がきちんと聴いて、適切に行動してくれるのであれば、この手の心配は無用であるが、残念なことに、実験室のレイアウトは生徒が騒がしくなり易くなるトラップが潜んでいる。
そのトラップに相当するものが2つ目と3つ目の違いに関係する。
教室にある椅子のように背もたれがついていると生徒は今までの習慣が定着していることもあり無意識に前を向いて座ってくれるのであるが、それが無いと、後ろのテーブルにもたれかかろうとする。それだけなら、まだマシなのだが、ひどい場合はそのまま教師に背を向けて、後ろのテーブルの生徒たちと私語を始めるのである。
後ろを向いてしゃべっていたら、注意するのは当然であるが、更に残念なことに教室の机とは異なり、テーブルが4人掛けになっており、隣の生徒との心理的な境界が取り払われて、隣同士でも私語をしやすい状況なのである。生徒たちの興味・関心を引くために手暇をかけて準備した実験授業だけど、いざ授業が始まると、本題に入る前にざわざわ。
何度か注意を繰り返すも、私語が鳴りやまない、堪忍袋の緒が切れて、とうとう大声を出してしまい、ようやく静まり返るも、終始お通夜のような授業。
これなら、教室で普通に授業やっておけばよかった!
と後悔の念。
他教科と差別化を図ろうと斬新な授業に挑戦するにしても生徒たち集団の行動原理を理解していないと、ことごとく失敗してしまう。
次回の実験室での授業シリーズでは、この問題も含めた、実験授業を準備・実行していくための技術についてお伝えしていく予定である。
授業の技術シリーズ(続き)はこちらのガイドを活用ください。
授業資料集
実際の授業で利用した全データについてはこちらを参照ください。