高等学校での教科指導と生徒指導 | 授業の基本シリーズNo.06
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教科指導と生徒指導について

教育困難校における教科指導能力の中には、自身の専門教科を教えるための授業力に加えて、生徒たちを適切な方向へ導いていく生徒指導力が含まれます。

高等学校に入学する生徒たちは、高校入試において、学力検査での試験結果と中学時代の学校生活の評価、つまり内申点によって振り分けられます。仮に、素行不良で学力の低い生徒が進学校のA高校へ行きたいとなっても、まず中学校の担任の先生を中心に進路変更が促され、それを振り切って受験に挑んだとしても、内申点と学力試験の結果によって進学が阻まれることでしょう。

従って、高校に勤務する教師は、そこに通う生徒たちの学力に応じて、教える内容をがらりと変えていく必要があります。それだけでなく、学力の差というのは、前向きに学習活動に取り組めるかどうかの差にも関わってきます。

極論すると、

  • 学力レベルの高い生徒が集まる進学校では、大学進学のため、もしくは進学後の専門教養に結びつく高度な知識を伝える授業
  • 学力レベルの低い生徒が集まる困難校では、生徒たちに50分間(1時間の授業中に)規律ある行動を徹底させる授業

が求められます。

今回お伝えする内容は、特定生徒を叱る時の技術で、

主に後者に必要とされる技術です。

生徒を叱るために大切なポイント

あらゆる個性が認められ尊重するべきと言う意識が一般的になっている現代社会。

学校で生徒を指導する場面だけでなく、
家庭で子育てをする時にも、
叱り方を学ぶことが大切になってきます。

叱るという行為は、子どもたちの感情、

つまり心に響かせるための行為です。

一時の感情の捌け口として、

大人が子どもを怒鳴るなどの行き過ぎた指導が継続する状態が、

時として心理的虐待となり、

子どもの成長に悪影響を及ぼすことがあります。

かと言って、適切な指導をしないというのは、

子どもたちの感情に訴える機会が与えられないことに相当し、

喜怒哀楽の感情的な揺れ動きが少ない、

感受性に欠けた人間になってしまう可能性があります。

教育現場においては、特に叱る技術は大切で、

生徒の叱り方がしっかりしていないと、

生徒から必要以上に反感を買ってしまい、

後々の学校生活に支障をきたすことがあります。

それだけでなく、

今では、生徒に対する言葉遣いや行動に気を付けないと、

暴言や体罰として最悪の場合、

教育委員会から処分されてしまうことさえあります。

そして、そのような教員にとって不利な環境に委縮しているだけだと、

生徒の不適切な行為を助長してしまい、

最悪の場合、学級崩壊や授業崩壊を招く結果となります。

 

また、叱るという行為は、教師個人の性格によって左右されやすい 部分があり、

例えば、思ったことを単刀直入に伝えられる人であれば、

生徒の不適切な行為に対して、

すかさず指導を入れることが出来ると思いますが、

これを言ったら相手が傷ついてしまうんじゃないかな・・・と、

思ったことを伝えるためにワンクッション入れてしまう人だと、

生徒の不適切な行為に気付いても、

その場ですぐに指摘することが出来ずに、

指導の機会を失うことになります。

 

例えば、後者だと、

授業時間中に携帯電話を使用しているマナー違反の生徒を発見したとしても、

間髪入れず指摘出来ないがゆえに、

きちんと指導しようと決心した頃には、

生徒は携帯電話を机の中にしまって、

何食わぬ顔をして授業に参加している・・・。

こんな経験を私も何度か繰り返してきました。

 

授業が終わってから、直接生徒に注意したとしても、

これこそまさに、鉄は熱いうちに打ての如く、

冷めきった生徒の心にほとんど響きません。

生徒の立場からすると、

「そんなこと、他の子だってやってるじゃん。何で俺だけ、私だけに今さらそんなこというの?。」

という訳です。

つまり、携帯電話を操作している現行犯として注意できなかったため、

生徒は自分だけが指導を受けている事実を

素直に受け入れることが出来ないのです。

この段階で、教師が激高して生徒と口論に発展してしまうと非常に厄介です。

当事者同士で問題が解決できないので、

生徒のクラスを受け持つ担任や生徒指導部が介入して解決に入ります。

ここでようやく騒動が収まると思いますが、

生徒の根底にはやはり

「何で自分だけ。」

という感情が根強く残り、

教師と生徒の人間関係が崩れてしまい、

後々の授業がとてもやり辛くなります。

 

元々は心の優しい先生です。

今回の件で、自分にも少し非があると謙虚に反省するのは結構なことですが、

先の授業において、今度は別の生徒がマナー違反をしているにも関わらず、

苦い経験が尾を引き、

すかさず注意どころか後になっても注意することさえ出来ずにいると、

授業規律がどんどん乱れていきます。

何とかこの状況を打開しようとして、

自分の性格に反して、ズバズバと生徒に厳しく注意を促していっても、

授業の雰囲気は悪くなるし、教師だって人間です。

精神的ストレスはやがて限界を迎え参ってしまいます。

 

そのような最悪の状況を避けて通るためにも、

特に教育困難校とされる学校に勤務する先生は、

叱る技術を身に着けておく必要があります。

前置きが長くなりましたが、

ここで生徒を叱るために必要なポイントを2つ挙げておきます。

 

◎生徒を叱るために必要なポイント
  1. 叱るときのルールを予め定めておく。
  2. 叱った後のシナリオをある程度イメージしておく。
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叱る時のルールを予め定めておく。

私自身も思ったことを口にするタイプというよりは、

まず先に、相手のことを考えてしまい、思い留まってしまうタイプです。

そのため生徒指導については、かなり悩み苦労してきました。

教員になってから、時間を見つけては教育関係の書籍に目を通したりもしましたが、良書と言えるものに出会えたのは、

教員生活が5年を過ぎた頃からです。

これからご紹介する叱る時のルールについても、

その時に出会った良書の1つを参考にしました。

 小中学校での技術だから、

高校現場では通用しないと思い込んでいたからなのか、

教師生活5年目を過ぎたころから、

担任業務を行うようになったことから

学級(クラス)経営を学ぶ必要性を感じたからなのか・・・・。

なぜ、このような良書に出会うのに5年もかかってしまったのか。

もっと早く出会えていれば、

生徒との関係がもっと良好になっていたのにと、

後悔することがたまにあります。

ブログを通して、私なりの技術をお伝えするのも、

小中学校では、こうしたノウハウ本が出回っているのに対して、

高等学校関係のものが圧倒的に少ないことがその理由です。

それに加え、高等学校は、前半にもお伝えした通り、

教師に求められる素養が多岐にわたるので、

そのノウハウをまとめた書籍を出版しても、

特定のニーズに限定されてしまうため、

多くの先生方があまり執筆に前向きになれないという理由があるように思います。

 

そこには叱る時のルールにも言及されていて、次のように書かれています。

叱るときのルールも、ぜひ伝えたい。
これは、野口芳宏先生の3か条がすばらしい。
中学生でも「黄金の3日間」でぜひ子どもたちに語りたい。
みんなと生活していくうえで、やってはいけないことがあります。
やってはいけないことをしたときは、先生は絶対に許しません。
先生が許さないことは3つ。
1つ目は、同じことを3回注意しても直そうとしないとき。4回目はありません。
■2つ目は、命に関わる危険なこと をしたとき。
 自分の命、友だちの命どちらもです。これは2回目はありません。
■3つ目は、弱いものいじめをした とき。
この3つのときは、どんな言い訳も聞きません。
絶対に許しません。やろうと言うなら、覚悟しておやりなさい。

学校生活において、

叱るタイミングを大きく3つだけとシンプルにまとめられています。

これは考えようによっては、

この「3つ以外の場面では、生徒を叱る必要はなく、仲良くやっていけばいいですよ。」

ともとれるので、生徒を叱ることが苦手な先生にとっては、

頼もしい心の支えにもなるのではないでしょうか。

少しだけ補足しておくと、

3つ目の「弱いものいじめ」の認定については注意が必要です。

詳細に伝えようとすると長くなるので、

このテーマについては別の機会にお伝えしますが、

一見、いじめの被害者に見える生徒が加害者である場合があるので、

弱いものいじめだと思っても突発的に行動するのは

控えた方がいい場面があります。

 

授業中に生徒を叱る時には、

1つ目のルールを頻繁に使いますので、

こちらについて話を進めていきます。

授業中に指導になかなか従わない生徒に出くわした時に、

授業者は徐々に怒りといら立ちを覚える訳ですが、

そろそろ叱るタイミングかなと思った時に、

心の中で冷静に指導に従わなかった状況を振り返りながら、

「1回目」・・・、「2回目」・・・と、

カウントを唱えていくと怒りに任せた感情的な指導を抑制することが出来ます。

この辺りは、アンガーマネジメントにも通じるところがあるように思います。

指導に従わなかった状況を振り返るというのは、

これから先の指導が正当なものであるかを再確認したり、

授業者がなぜ怒っているのかを対象生徒に説明する際に大切になってきます。

細かなことですが、ここを怠ってしまうと場合によっては、

他の生徒の不適切な行為をカウントに含めてしまったり、

生徒や教員に説明する際に、あやふやな説明になってしまい、

自分自身の行動の正当性がきちんと伝わらなくなってしまう可能性があります。

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叱った後のシナリオをある程度イメージしておく。

生徒を叱った後のシナリオというのは、つまりこういうことです。

叱った後、

  1. すぐに生徒が素直に反省の態度を示す
  2. 指導には従うが生徒から反省の態度が見えない
  3. 指導に従わない。もしくは反抗的な態度を示す

大切な指導とは言っても、

その他大勢の生徒たちの授業をきちんと保証することも忘れてはいけません。

特定生徒の指導に対しては、

ある程度のシナリオを想定しておけば、

その他の生徒たちに対する指示伝達を怠らない心の余裕が授業者から生まれます。

大体は上記に挙げた3つのシナリオに対して、

その次の行動をある程度想像しておけば良いでしょう。

 

1については、これ以上厳しく接する必要はないと思います。

何か伝えるべきことがあれば、授業が終わってから、

個別に呼び出して伝えてあげれば、反省し態度を改めてくれるでしょう。

2は少し厄介です。もしかしたら、3よりもたちが悪いかもしれません。

厳しく叱責することによって、

指導には従い、注意を受けた行為自体はやめるものの、

生徒の表情からは反省の色が感じ取れない時があります。

さらに後で、個別に呼び出し説諭しても、

いまいち指導が通っているように感じないことがあります。

この状態では、生徒から反省の態度を引き出そうとしても、

生徒の立場からすると注意されたことに対しては、

行動を改めると言っているわけです。

それなのに、反省が足りない。

もっと反省しろと言われても、生徒としては納得できません。

教師の立場からすると、生徒から誠意が全く感じられないわけですが、

ここは怒りをぐっとこらえて引き下がるしかありません。

後で、担任の先生や生徒指導部に、

これこれこのような経緯で生徒を指導したという事実を報告してください。

私の経験による話になりますが、

この手の生徒は、後々かなり高い確率でトラブルを起こし、

何かしらの指導を受けることになります。

ですので、その時こそ「倍返しだ!」くらいの気分で、

ここは潔く引き下がって、次の指導に備えることにすればいいでしょう。

 

3は一番大事になってしまうケースですが、

大事になったが故に、

クラス担任を含む学年団や生徒指導部との連携が図りやすいので、

きちんとした手順を踏めば、

生徒対して適切な指導が施された上で、問題解決に収束していきます。

生徒が指導に従わず、更に反抗的な態度をとった場合、

たいていの学校においては、

指導拒否として生徒指導部から何かしらの指導を受けることになります。

酷い場合には、謹慎指導を受けることもありますし、

このような指導が積み重なっていく場合は、

停学処分や進路変更を検討してもらうなど、指導内容に重みを増していきます。

こういった事情もあり、

高等学校の生徒指導では、指導の積み重ねが意識されています。

この点は、どのような状況にあろうとも、

生徒を就学させることを前提とする義務教育の小中学校とは異なる部分でもあります。

高等学校で勤める私からすると、どんな問題児であっても、

卒業まで学校で面倒を見てあげないといけない

小中学校の先生方は本当に大変なんだろうなぁと思うことがあります。

 

さて、教師の指導に対して反発した生徒がとる行動は、主に2つ。

  1. 教師から出ていき、保健室に引きこもるもしくは(無断で)早退する。
  2. 教室にそのまま居座ろうとする。

ここまでの行動に出たら、

生徒には生徒指導部からの指導を受けてもらうことになるわけですから、

最後に生徒の身柄が生徒指導部に確保されるように冷静に対処すればいいです。

1のケースであれば、いったん授業は中断し、

クラス担任もしくは生徒指導部の教員に、

取り急ぎ情報伝達を済ませて、生徒の捜索を任せてから、

再び授業を再開してください。

数分の対応で済ませられるかと思います。

そして、授業終了後の空き時間に事の顛末を伝えて、

連携して問題解決を図ってください。

無断で早退した場合は、

無理に後追いはせずに翌日以降に指導すればいいと思いますが、

クラス担任を通じて家庭連絡してもらい

保護者に問題行動が発生した事実を伝えておくと良いでしょう。

 

2のケースであれば、再三の注意にも関わらず、

授業を妨害する行為を行ったわけですから、

私であれば教室から一時退室させます。

男性であれば、力ずくでも引っ張り出して、

クラス担任のいる職員室や生徒指導室、

もしくは保健室へ一時的に生徒を預けます。

女性であれば、他の教員に助けを求めて、該当生徒を強制的に退室させます。

その後に、授業を再開してください。

その後の対応については、1と同じです。

 

このように、生徒を指導する場面において、一定のルールを設けておくと、

精神的な余裕が持てるようになります。

「生徒が突然こんなことやあんなことをしてきたらどうしようか・・・??」

などと、おどおどしたような先生の態度は、

すぐに生徒に見破られてしまいます。

今回お伝えした内容が、

これから教壇に立つ若い先生や突然教育困難校に配属されてしまった先生のお役に立てれば幸いです。

授業の技術シリーズ(続き)はこちらのガイドを活用ください。

授業資料集

実際の授業で利用した全データについてはこちらを参照ください。
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