高校物理の授業づくりを提案する(前編)
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今まで3回に渡って、物理教育がいかに困難で
あるかをお伝えしてきたが、困難というか
出来ない理由を述べていても建設的ではないので、
今回は、生徒たちが物理学を理解できる可能性が
比較的高くなるような授業モデルについて
議論していきたい。とは言っても、現在私は、物理を専門に授業を
行っていないので、実践報告ではなく、
あくまでも提案という形になってしまうことを

ご了承いただきたい。

1.事前に生徒の理解度を把握すること

授業内容に関わる自然現象について、

生徒がどのようにもしくはどれだけ理解しているか

予め把握しておくことは大切である。

 

まずは、こちらの問題を見てもらいたい。

□問題
本が机の上に置かれており、静止している。
本には次の力のうちどれが働いているか。
1.重力による下向きの力
2.机による上向きの力
3.大気圧による正味下向きの力
4.大気圧による正味上向きの力

(A)1のみ
(B)1と2
(C)1,2,そして3
(D)1,2,そして4
(E)これらのどれでもない。本は静止して
         いるので、力は働いていない。

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物理を学んできた方であれば、流体中の物体には
浮力が生じることを、既に知っているので、
ほとんどの方が(D)を選択したことと思う。
高校レベルの物理を履修したことがない方、
もしくは、これから履修する学生であれば、
解答の選択には大きなばらつきが生じることが
想定される。
例えば、我々は常に地球上の重力に支配され、
運動が制限されていることは、経験的に理解して
いるので、本を支える力の存在が連想できれば、
(B)を選択するだろう。
しかし、本を持ち上げる時など、力は何らかの
意思が働いたときに作用するものであると認識して
いる人は、(A)や(E)を選択する可能性がある。
(机など意思を持たないものが、他の物体には
力を及ぼすことはないと考える。)
そして、(B)を選択した人たちの中には、
選択肢の中に「大気圧」という空気の存在を
ほのめかす語句を目にしたため、空気が物体を
下向きに押すのではなかと推論を働かせて、
(C)に解答を切り替える。
物理の授業を実践するに当たって、学習内容に関わる
自然現象を生徒たちがどのように理解しているかを
把握することはきわめて重要である。
上記の問題は、生徒たちがどの選択肢を選ぶのか、
またどの選択肢に解答が集中するのかによって、
特定の物理現象に対する認知レベルが把握出来る
という点で、優れた選択問題である。
事前にこのような選択問題を実施しておくと、
生徒たちに伝えるべき学習内容、それに際して必要な
教材などを適切に準備することが可能になってくる。
2.生徒たちの認知レベルに応じた授業展開の方針決定

生徒の認知レベルが把握出来たら、

次は生徒たちがどのような経緯で自然現象を

理解してきたのかを想像してみることをお奨めする。

今回は上記の問題を経た上で、具体的に
どのような授業を展開していけば良いのかという
指針について私なりに考えていきたい。
これから授業を実施する生徒たちは、力学の序盤に
おいて力の概念については学んできているので、
今回の選択問題では、多くの生徒が(B)を選択、
次いで空気の質量に着目して(C)、そして、
ごく1部で残りの選択肢を選択したという
想定のもと、話を進めていくこととする。
今回の場合だと、生徒たちは、力の概念については
ある程度理解出来ているが、大気(流体:気体)
が物体に対して及ぼす影響をまだ理解(イメージ)
出来ていない。

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物理で該当する単元は、現行の学習指導要領だと
液体や気体から受ける力の圧力・水圧・浮力に関わる
ところで、
最終的な目標は、流体が与える浮力について
しい理解を生徒たちから引き出すことになる。
浮力というと、
プールで遊んだり、海に浮かぶ船などを連想して、
生徒たちは水中にある物体は、水(流体:液体)
から浮力を受けることは知っている。
そして、物体が受ける
浮力よりも物体にはたらく重力の方が小さければ
物体は、浮かび上がり、重力の方が大きければ
物体が沈むことも、経験的に知っている。

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たいていは、水の浮力の事例を基にして、
この現象は実は空気などの気体についても
起こるものであると、流体全般に対して
抽象化して伝えるのだが、この時に生徒たち
には乗り越えるべき困難な壁が立ちはだかる。
生徒たちは、水のイメージより、液体から浮力が
発生することまでは納得出来るが、空気などの
気体から浮力が発生することに対しては素直に
納得が出来ない。
なぜなら生徒たちは、地球上に誕生して以来、
ほぼ全ての時間を空気中で過ごしてきた訳だが、
地球上の重力に対して、空気から受ける浮力の
影響は皆無に等しく、文字通り空気中では浮力
発生しないという認識のもとで、
生活しているからだ。

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そして更に都合が悪いことに、ヒトを含むほとんど
の生命は、絶えず呼吸活動をくり返しており、
視覚的に確認できない空気の存在をきちんと
認識している。
そのため、場合によっては、
空気中では物は浮かないが水中では物が浮く
という対比から、気体中にある物体には浮力は
はたらかないという誤った理論を形成している
ことさえあるのだ。
そこで、生徒たちを正しい理解へ導くポイント
として、
「気体中にある物体にも浮力がはたらくこと
を経験してもらう。」

ことが第一に挙げられる。

後編に続く

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