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電気パンの科学。はじめに
今や理科教育の定番となっている電気パン。
電流・イオン・電気抵抗・熱などたくさんの事が学べるということで、一般家庭向けにも販売されています。
私の授業でも、今まで何度も電気パンのお世話になってきました。
高等学校においては、生徒たちの興味を引きつけながら、中学校理科の学び直しの機会を与える教材として活用できます。
それだけでなく、高校物理においては、I = envSの式を導出するために、「電子の運動による電流のモデル化」を説明する際の導入として電気パンを紹介しておくと、生徒たちの理解が深まりやすくなります。そういう意味では電気パンは、単なる子ども騙しに留まらない、名実共にとてもおいしい教材です。
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そんな電気パンですが、以前から極限までにデカくしたのを作ってみたいという思いがあり、今回は通常サイズよりも大きなものを作ってみることにしました。
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動画で作成の様子を確認したい方は、こちらにお進みください。
電気パンの原理(概要)
電気パンは、高さ7~8cm程度に切り取った牛乳パックの両端にステンレス板を挿入し、その中に電解質溶液となるパン生地を流し込んだ後、電気を流すことで作ることが出来ます。(化学が苦手な方は、電解質溶液とは電気をよく流す液体の事と大まかに理解してください。)
パン生地の原料となるホットケーキミックスには膨張剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)が含まれており、これを牛乳などの液体に溶かすと電解質溶液として作用します。さらに電気を流した時に発生する(ジュール)熱により、炭酸水素ナトリウムの熱分解反応が進行し、発生した二酸化炭素が生地の内部で気泡となり生地を膨らませます。
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巨大電気パンの材料準備
漠然と巨大な電気パンを作るとなると、無限に発想が広がりそうなので、今回は牛乳パックとステンレス板を利用して可能な限り巨大な電気パンを作るという制約を設けました。
この制約の中でパッと思いつくのが、牛乳パックを縦に積み重ねて、高さを大きくする方法です。牛乳パックさえ揃えば高さは無限に大きく出来ますが、それと同じ長さのステンレス板がないと均一に電気は流れないので、市販のもので入手可能なステンレス板を探すことにしました。
一番大きなサイズのステンレス板で、すぐに手に入るものだとはこれくらいになります。
私はホームセンターで縦920mm×横600mm 厚さ0.3mmの物を購入しました。
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さっそく切断していきます。牛乳パックの横幅は70mmなので、少し小さめに横幅は68mmにします。切断には万能はさみを使いましたが、事前にカッターナイフで切れ込み線を入れておくと切りやすくなります(それでも結構力が必要です。)
切断完了。ステンレス電極が完成しました。
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次に生地を注ぎ込む容器を作ります。ステンレス板の長さが920mmあり、電気を流す際にステンレス板にクリップを装着する余地を残しておくため、高さが900mmになるように牛乳パックを重ね合わせます。
牛乳パックの高さは図のように1000mlの物で高さが約195mm(三角の部分を除く)で、500ml(三角の部分を含む)の物で高さが約125mmなので、1000mlパック4コと500mlパック1コを重ね合わせることにしました。
■1000ml牛乳パック
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■500ml牛乳パック
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こんな感じです。
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後は流し込む生地を作れば準備完了です。
ちなみに従来のものだと、高さ80mm、幅70mmに対して、生地の材料は、
ホットーケーキミックス70g、砂糖25g、たまご1コ、牛乳50mlです。
今回の材料は、計算を容易にするため従来の10倍に設定しました。
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ホットーケーキミックス700g、砂糖250g、たまご10コ、牛乳500mlです。これが通常の材料ですが、私は生地の味を良くするため、牛乳に変わって生クリームを使用することがあります。今回は、牛乳300mlに生クリーム200mlを混ぜ合わせました。
これで生地の材料費は1100円程度になります。
生地に電気を流して完成
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こぼれないように注意して、出来た生地を容器に流し込みます。
その後、電極を挿入します。
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そして電極にクリップを挟み、コンセントを電源に挿し込みます。
※電源の扱いには細心の注意を払ってください。クリップを挟むのが先。コンセントを電源に挿すのは最後です。また、電気を流した後は、ステンレス板を接触させないでください。火花放電してステンレス板を損傷もしくは最悪の場合ブレーカーが落ちて停電します。
後は完成を待つのみです。
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湯気が上がってきました。
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牛乳パックの結合部分から生地があふれてきたのでガムテープで補強します。
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完成です。
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今回は、普段の10倍サイズの電気パンに挑戦してみた訳ですが、規模が変わると普段とは異なる困難に直面することがわかってきました。個人的には完成度は6割程度といったところ。何とか合格点が与えられるという感じです。そういった困難な部分については、動画にて改めてお届けしていく予定ですが、今度は100点満点の完成度を目指して再度巨大電気パン作りに挑戦します。
是非、読者の皆さんの家庭でも電気パンに挑戦してみてください。